軍団モモオ

　　昨日、真夜中に弟がやってきて鯛釣りに連れていかれました。もちろん船をチャーターするお金もないので堤防釣りです。今のご時世、鯛など、そんなに高級というわけでもないので、鯛を食べることよりも鯛を釣り上げることのほうがめでたいことなのです。

　簡単には防波堤で大物があがるわけもないので、なおさらおめでたいのです。

　防波堤に着くと、もう何組みか竿を出していました。「何か釣れましたか？」と魚顔のおっさんに聞いてみると「釣れたのはでっかい夢だけさ。」と寂しそうな顔をしました。

　竿をビュンビュン振り回し孤軍奮闘する私に、なんら当たりすらなく、弟は弟で蚊に刺されまくっていました。

　虚しく時間だけが過ぎていき、朝が白む頃、弟に乾坤一擲のチャンスが到来しました。弟のウキがシュッと海中に消えたのです。弟は、「タモ！（魚をすくう網）」と絶叫しました。弟は真っ赤な顔で海中の魚と闘っています。気を抜くと海に引きずり込まれる可能性すらあるのです。

　海面に浮き上がったのは、まぎれもなく真っ赤な朝日のような鯛でした。私はタモをたたみました。それは１２センチのタイの子供でした。５センチ以下の鯛をもって帰ると法律で罰されます。

　弟はガッツポーズを決めています。さっき、となりの親子連れが同じようなサイズを釣り、そこの小学生の娘がかわいそうだから逃がしてお父さん！と涙ながらに、手を振って逃がしていたサイズを、弟は自信満々でクーラーの中に放り込みました。

　「タイの釣り方、教えてやろうか？」と鼻を膨らませて弟は私に言います。なんで釣れんのか信じられないとか周りに聞こえるようにほざいてます。才能という才能を全部、弟に取られたのさ、あんたはとか言ってます。ドラエモンってしってるか？オイルの上の薄っいとこ使われたせいで下の濃いオイルで出来た妹のドラミちゃんとは差がついてしまったのさ、あんたみたいにさ～とまで言ってます。

　そんなとき、私のウキがズボッと海の中深く消えていきました。私は「たもっ！」と叫びました。本当の戦いがそこにはありました。弟との勝負ではなく、魚との真剣勝負。なかなか浮いてこない、それは３２センチのサクラ色のタイでした。弟がぶつくさ言いながらも網ですくってくれました。

　私は、周りのヒーローを見るような瞳も、すご～いという女の子の声も気になりませんでした。私はただ、早く帰って眠りたかったのです。

　弟はタイの写真を撮っていました。私のつった鯛を持ってガッツポーズをしています。

　もちろん、また弟は知り合いという知り合いにその写真を見せて、自分が釣ったと自慢するのでしょう。別に私はそれでもかまいません。私は釣りなんて、そもそも興味がないのですから。