軍団モモオ

　　　お正月は、のんびり他人と争わない雰囲気と、過去を忘れて前向きに大抵のことは大目に見てもらえる感じが好きです。毎日、昼間っから酒を飲んでいるアル中たちが唯一、怒られずにすむビッグイベントです。

　私も年から年中、「酒ばっか飲んでっ！」と家族総出で罵られているわけですが、この時期だけは戦地におもむく兵士のように皆が酒をついでくれたりします。

　それで今年も調子に乗って飲んでいたわけですが、さすがに罵るのを我慢している家族と酒を飲んでも旨くはないので自然と自分の部屋で結婚式に行った時と同じように手酌で飲んでしまいます。

　「この酔っぱらいがっ！」そう罵られ「いぃぇ～い！」と、親指を突き出すポーズを取らないと私としても心地よくないのです。　

　　私は酔っ払っていないのに酔っぱらいと言ったり、変態でないのに変態と呼ぶのは、好きなのに嫌いと言ってしまう女子みたいで好感が持てます。心配と愛情が罵りの言葉に変わってしまう、○○くんのバカ！（アニメ用語）と同じ効果です。

　みんな、尊敬とあこがれを込めながら、ドキドキしながら、私を「酔っぱらい」とか「変態」と呼んでいることを私は知っています。みんな本当は、もっともっと私が酔っ払って武勇伝を作ったり、女子にセクハラして土下座したりするのを楽しみにしているのです。この平凡で退屈な、灰色の世界で。

　本当は酒など飲みたくないのですが、この世から酔っぱらいヒーローがいなくなったら、人生つまんないと誰かが女子トイレに落書きするかもしれません。だから、今日も一人、私は孤独と嘲笑に耐えながら酒を飲んでいます。

　「この酔っぱらい～」

　笑顔で、そう言ってもらえたら私は肝臓も明日のことも、どうなったっていいのです。いつか私の心も体も、いつの日か限界が来るでしょう。今も肝臓と隣の女子が悲鳴を上げています。

　それでも、最期までワンカップは放しません。

　酒のために生き、酒のせいで死んでいくさだめ、それがたぶん酔っぱらいヒーローの幸せなのでしょうから。