軍団モモオ

　　もう冬です。私は冬もそんなに嫌いではありません。鍋でもつつきながら熱燗をちびちびやるには寒さも必要なのですから。

　小学生のころ、ノブ君という友達がいて、真冬のヒーローと呼ばれていました。それは、ノブ君が真冬でもランニングに半ズボンに靴下もはかずに学校に通ってくるからでした。

　私たちが寒くて死にそうだと言うと、「だから子供は嫌いなのさ、エスキモーは氷の上で眠っても凍傷にならなかったんだぜ。」
　ノブ君が言うには、エスキモーが凍傷になるようになったのは白人に氷の上で寝てたら凍傷になるぞと言われたせいだそうです。

　ある真冬、遠足があって私たちは遊園地に行くことになりました。さびれた遊園地の目玉は―１３０度の世界でした。ペンギンも凍り、バナナで釘が打てる悲しい世界。オヤツは３００円までです。この時に有名な、「バナナはオヤツに入りますか？」というフレーズが生まれたのです。

　私たちはノブ君がランニングで―１３０度に耐えられるかどうかだけが楽しみでした。

　遠足に行くとノブ君はいつものランニング姿でー１３０度の大きな冷凍庫の中へみんなと入っていきました。なかにはペンギンの剥製があったりして、私たちは非常にがっかりしていました。バナナもすぐに凍るわけもなく。

　ノブ君はキンキンの冷えたファンタをのんでうまいとか言ってます。私たちはすぐに飽きたのですが、ノブ君は居心地がいいので、しばらくここでハネをのばしてるよとか言いました。私たちはそこを出て、ノブ君のことなんか忘れて射的でお互いの急所を打ち合っていました。

　帰りしに、なんか忘れたなと思ってるとノブ君がいません。先生に聞いてみると冷凍庫の中で倒れて救急車で運ばれたそうです。ノブ君は最初は、みんなのかわりに人質になったとか言い張ったのだそうですが、最後には本当は、引っ込みがつかなくなって今までランニングで学校に通っていたことも白状しました。本当は寒いのが何より嫌いなんだそうです。

　私たちにはショックでしたが、逆にちょっとやせ我慢すればヒーローになれてしまううんだということに気がつきました。仮面ライダーも本当は怖くて逃げ出したいけど、カッコつけてるうちに、引っ込みがつかなくなってしまい砕け散るまで戦う羽目になったのだということに。

　滅びの美学だとか、破滅への賛歌は、ただいいカッコをしているうちに一歩も引けなくなって、自分に酔い、物語に酔うのがヒロイズムだということを子供の私たちはなんとなく理解しました。

　そして１週間後、全身しもやけで学校を休んでいたノブ君が登校してきました。その顔は真っ赤でパンパンにはれていました。それからノブ君は、しもやけウインナーとよばれるようになりました。

　みんなノブ君がヒーローなどではなく、口ばっかでヒーローに最初にやられる一戦闘員だということに気づいてしまったのです。