軍団モモオ

　　うちの母が孫のベビー服を縫っています。まっ黄色なので、それを着たらひよこみたいだろうな、私がそんなことを言うと、弟の顔が曇りました。そうでした、弟には悲しい思い出があるのでした。

　そう、あれは小学生の頃です。祭りの夜店にカラーひよこが売られていました。むかし友達がカラーひよこを買うと、ひと月ほどで大人になりやがり、毎朝こけこっこーと全力で鳴くようになったのです。どうしてもニワトリを捨てられなかった優しい友達は、ニワトリを連れて家出してしまうというカルピス子供劇場のような出来事がありました。

　弟は「このひよこ、売れ残って大人になったらどうなるの？」と夜店のおっさんにきくと、おっさんはニタッと笑って、「食っちまうんだよ、ぼうず・・・それが嫌だったら買っていきな。」と言いました。

　ピヨピヨ泣いているひよこ達を救うために弟は、「うちの兄貴と交換しよう。」と交渉しましたが、私５人に死にかけのひよこ一匹というレートを変えることは出来ませんでした。

　弟は全財産をはたいて、ひよこを一匹だけ連れて帰りました。ひよこはどこへ行くにも弟の後をピヨピヨとテテテテッと付いてきます。ときどき、歩きながらウンチをします、とても器用です。むかし、私が道を歩いていると、頭の上に鳥がフンを落としました。鳥は飛びながらウンコできるんだと感心しました。そのとき、私が万有引力というものを発見したのです。

　しばらく、ピヨピヨな日々は続きました。

　そんな寒いある日、ひよこがカゼをひいてはいけないと弟はひよこと一緒に眠ることにしました。翌朝、弟の鳴き声に目を覚ますと、ひよこがぺたんこになって死んでいます。弟は私が夜中に暗殺したのだと警官を呼ぼうとしましたが、弟の寝相の悪さで下敷きになったことは誰が見ても明らかでした。それからというもの弟は、鳥の唐揚げにレモンを絞ると、「オレのひよこちゃんに酸っぱいもん、かけんじゃねえ。」と、怒るようになりました。

　人はみな心の奥に、思い出すと胸がつぶれてしまうようなことを、そっとしまっているのです。ちなみに私はアリエッティーをつぶしました。

　それから弟は、なにも潰さないようにずっと一人ぼっちで眠っています。

　ひよこの夢を見ながら。