軍団モモオ

　　　弟と正月の真夜中に釣りをしていた私は、２５センチくらいのアジを６匹、釣り上げました。ゼンゴと呼ばれる小さいアジは、全部、海に逃がしてあげます。お正月ですから。小さいアジはキューッと泣いて海に帰っていきます。ちょっといいことをしてしまった優しい私は、クーラーボックスでじたばた暴れているアジには、「うるせー！」とクーラーに蹴りを入れます。

　釣っては逃がすという無益な行為を繰り返すうちに、夜が明けてきました。すっかり冷えきって、ふるえで口もきけなくなっています。疲労と眠気と、平凡な、繰り返す日常。私はすっかり平凡な人生に嫌気がして不倫するセレブ妻を気取ってみました。

　朝は釣りにはゴールデンタイムなので、ぽつぽつと家族連れがやってきました。小学生くらいの子供たちがキャッキャッ、走り回っています。女の子も４人ほどいます。子供たちは寒いとも言わず、小あじを釣ってはオレの方がでかい、お前のはちっさいとか言って、互いの股間を触り合っています。

　子供たちは、どんな魚を釣ってもクーラーの中に放り込んでいます。すべて持って帰るつもりのようです。それが食べられない魚でも、小さい魚でも。

　近所に住む女の子が、飼ってるメダカが死んで泣いていた遠い昔のことを私は思い出していました。その子に、そんな昔話をしても、すっかり忘れてしまったようです。死んだものは、泣こうと、悲しもうと、どうにもなりませんが忘れることはできるようです。

　それはともかく、子供たちに命の大切さというものを教えねばなりません。ここはひとつ、弟がひとはだ脱いであげるようです。子供たちに、彼らよりも大きい下半身を見せて、生命の誕生の神秘というものを教えています。生命の作り方を・・・・。子供たちはしゃがんで、目をキラキラさせてうなづいていました。

　私は、「一人で釣りに来た！」と言いながら、冷たい防波堤をあとにしました。