軍団モモオ

　　 今日、冬の雨上がりの冷たい風のなか、街を歩いてると中学生ぐらいの男子に、「マイネーム　イズ　○○イトオ！」と話しかけられました。初めて習った英語を外で使いたくてしょうがなかったのかもしれません。とりあえず私は、なつかれると面倒なので無視します。

　英会話を学ぶ最良の方法は、たしかに街に出て海外の人と話すことです。少年の勇気は誉めてやりたいところですが、私は日本人です。

　外国人と友達になるというのは難しいことです。むかし、前から革ジャンの黒人二人組がチェーンをふりふりさせながら歩いてきたので、死んだふりをしたことがあります。友達は学校で作るのが安全ですから、交換留学生というものが始まりました。まあ、お互いに言葉を学び合ってもらおうと始まったものでしたが、意外とシャイな日本人にはなじまないものでした。

　そこで、いっそのこと教師を交換してしまえと私の学校の中国語教師は中国人を採用しました。私はピチピチの中国人女教師が手取り足取り、レッスンワンという噂に騙され、第二外国語を中国語にしてしまいました。

　しかし、中国語の授業にやってきたのは、ピチピチの服を着た生活に疲れきったおばさんでした。タン先生といいます。授業はカタコトの日本語で教科書を棒読みするだけです。そして私は、単位を落としてしまう羽目になりました。

　もう卒業して、昔話なのですが先日、コンビニに入るとレジの中にタン先生を見つけました。チューリップの名札にタンと書いてあるので間違いないでしょう。

　タン先生は、「いらっさいませ！」といまだにカタコトです。

　私は先生が「くちでる、くちでる」と口を尖らせて話していたのを思いだしました。みんな、「ちゅーして！」という中国語のことだと勘違いしていましたが、それは唇と言っていたんだということに、今きづきました。

　私は、何か話そうとも思いましたが、なつかれると面倒なので無視して店を出ました。タン先生の、「ありざ－した。」の声が聞こえます。

　そして一年後、タン先生はまだレジの中にいました。いまだに研修中の名札をつけています。

　それでも、上手に「いらっさいませ！」が言えるようになっていました。