軍団モモオ

　　　私は昔、美容師でした。中学生の頃、ビダル・サスーンにカットしてもらい、「君がモテないのは君のせいじゃない、君の髪を切っている奴のせいだ。」という言葉に感動し、私は美容師を目指したのです。

　でも、今は色々あって私の髪は１０００円カットで切ってもらっています。

　今日も１００円カットに来てみると、一人だけ女子中学生がいます。オッサンたちに混じり一人ポツンと髪を切られ、半分泣いています。店では私一人だけが彼女とともに心を痛めていました。私なら彼女をシンデレラにしてあげられるのに・・・。でも、もうハサミは置いてしまったのです。

　私がむかし、美容師をしていた頃、似たような涙を見ました。あれは、たしか二十歳ぐらいの青年で・・・。青年は私に、「助けてください、髪の毛がなくなっていくんです。」と涙をこぼしました。しかし、カットというものは髪の毛を減らす作業。

　私にはどうすることも出来ませんでした。私はそういう悲しみを和らげるために日夜、練習しました。その努力で私の頭が薄くなるほどでした。

　ある日、弟の歴史の教科書を見てるとフランシスコ・ザビエルの肖像画にちょんまげの落書きが描いてありました。キリスト教を広める代わりに、ちょんまげをヨーロッパに広めろ　by信長、と書いてありました。

　私はひらめきました。そうだ！ちょんまげにすればハゲが目立たなくなるぞ！

　日本人の頭頂部は昔から薄くなりやすく、それを誤魔化すためにちょんまげというヘアースタイルが確立されたのだという論文も発表しました。

　美容師だった私は「ちょんまげ始めました」の貼紙をして新メニューに加えました。中学、高校生に大人気でしたが、校則で禁止されるようになって私の店も傾き始めました。デフレの嵐の中、１０００円カットが登場したのは、それからしばらくのことでした。

　私は、店をたたみました。

　もう二度と、お客さんのちょんまげを、お客さんの友達が見て、大笑いするという笑顔も、もう見ることもないのでしょう。そして、なにより皮肉なことに私が１０００円カットで髪を切ってしまっています。

　髪を切り終えた私が、外に出ると雨がポツポツ降り始めました。