軍団モモオ

　　青春、ど真ん中の女の子が恋愛禁止にしてまでアイドルなんかになりたがるのかはよく分かりません。それは、高すごぎるシャネルのバッグを欲しがるのと同じように私には思えます。

　うちの劇団はアイドルを目指したものの、書類選考ひとつ受からない女子の駆け込み寺になっています。歌手からアイドル歌手、それも無理で女優、も諦めて地下劇団という流れのパターンです。いちおう、私たち劇団アイドルのコンセプトはあって、地下鉄で会いに行けるアイドルなどではなく、地下に潜伏する指名手配犯アイドルです。

　先日、カブトムシしかいないような田舎から出てきたマリモという女の子がなんでもしますから私をアイドルにしてくださいと入団しました。私は誰かが夢を見ているのを応援するのが大好きなので、ない知恵をしぼります。

　普通にしてても絶対に売れない自信があったので、なんでも食べられる見世物小屋アイドルになってもらうことにしました。マムシを生でバリバリかじってくれたりすば、精力もりもりです。

　「蛇はちょっと～」とマリモが生意気を言うので、私はペットショップに食材を探しに行きました。私は一歩ゆずって、カブトムシのサナギを、あっ唐揚げみた～いとバリバリかじっているのをユーチューブに投稿することから始めようと決めていました。

　しかし、カブトムシのサナギじたい売っていません。しょうがないので、他に不気味なものを物色していると、カブトムシの飼育セットの容器に水が張ってあって、ピンク色の何かがこちらをじっと見ていました。

　それは、懐かしのウーパールーパーでした。１９８０円です。しかも、名前が付いていてマリモと書いてあります、ちなみに隣のはタカシです。昔はテレビにも出ていた動物アイドル、ウーパールーパーが今では、こんなスーパーの片隅で売られているのに私はひどくショックを受けました。

　確かに、気色悪いのに無理やり人気者にしようとした感はありありでしたが、それでも切なかったのです。

　私がしようとしていることも、同じようなことと、ウーパールーパーを辱めるのと同じような気がしました。反省した私は、マリモの下着の中にカブトムシを入れるのは、もう止めることにしました。

　私はマリモにカブトムシのいる田舎に帰るように言いました。それは彼女にとっても私にとっても辛いことでしたが、それがきっと一番いいことなのでしょう。

　マリモを地下鉄に見送りに行くと、マリモは「今までありがとうございました。」と泣きじゃくっていました。電車のガラスの向こうで泣きながら手を振っているマリモは、水槽の中にいるウーパールーパーにそっくりでした。