軍団モモオ

　　 私が小学生だった頃も夏休みの朝といえば、ラジオ体操でした。退屈な夏休みに絶望していた私は後ろの方で、気功をしたり、セミを殺したりしていました。

　みんなも、そんな感じだったので、ラジオ体操のプロが派遣されてくることになりました。

　やってきたのはセミを生で食べそうな焼酎臭いオッサンでした。本人いわく、西日本ラジオ体操のチャンピオンでラジオ体操６段だそうです。「ラジオ体操は海軍ゆずり～。」が口癖でした。

　女子がジーンズなぞ履いてこようものなら、「貴様、明日からはブルマかスクール水着で来い！」と荒れ狂います。そして全力でラジオ体操をするよう私たちに強要しました。用事ででも休もうものなら、翌日に長文の反省文を提出しなければなりませんでした。

　貴様らが、１人前になったらラジオ体操の３番を教えてやる！と言いますが、そんなのはオリックスの３番打者より興味がありませんでした。

　そんな拷問のような日々が続いたある日、オッサンはいつもより酒臭くご機嫌でした。いつもは自分は体操せずに女子の身体を監視しているだけなのですが、「今日は貴様らに本物のラジオ体操というものを見せてやる！」とラジオ体操を始めました。

　さすがにラジオ体操６段、動きにスキが無く迫力があります。ジャンプの運動をしていた時でした。

　無意味に飛び上がり、着地したオッサンの足からブチッという音が聞こえてきました。オッサンはうずくまって救急車を呼んでくれ～とうめきました。

　どうやらアキレスケンが切れたようです。きっと、準備運動が足りなかったのでしょう。そもそも、ラジオ体操自体が準備運動みたいなもんなのに・・・。それ以来、オッサンはラジオ体操にはあらわれませんでした。

　そして、私たちは平和な夏休みを取り戻しました。

　それでも、それからはオッサンがいなくても、みんなきちんとラジオ体操をするようにはなりました。ふざけてたら、また変わりもんが来そうだからです。

　もう昔のことですが、今でもラジオ体操が始まると、「ラジオ体操は海軍ゆずり～、初めっ！」のオッサンの声が聞こえてくるような気がするのです。