軍団モモオ

　 さいきん、残暑は厳しいですが、朝晩は涼しくなってまいりました。季節の変わり目というのは歌人にとっては歌を作りやすい時期です。短歌を裸で読んでいる女子高生が好きな私も、なるべくこの時期は散歩するようにしています。

　私は夕方、下駄をはいて散歩するのが好きです。ときにカコン、カコンという音を立てながら、自分の足音というのを聴きたくなるのです。小さな子が履くキュッキュッと音の出るサンダルが欲しかったのですが大人用はありません。あの靴は、子供の不安定な足取りが可愛い旋律を産み、その小さな歩みを耳でも見守れる優しい靴です。

　私は大人なので、自分で自分の足音を見つめます。

　誰か忘れましたが、ある詩人が下駄の音は、「もう、地面に帰ってもいいですか？」と地下をノックする音だ。と書いてました。下駄の音は、そう言われてみれば、後ろに引きずられるような音のような気もします。ゆっくりしか歩けないのですし。

　この音つきの散歩には、ひとつ難点があって、下駄に合う服の選択が難しいのです。他人の目を気にしない、我が道を行く王道タイプの私は黄緑のジャージに下駄を履いて散歩していたのですが、通りすがりの老人たちは、「その健康法は、何に効果があるのですか？」と質問してきます。面倒くさいので、「モテモテになります。」と答えます。

　浴衣を着て、どこの温泉にお泊りですか？と聞かれるのも面倒なので、最近では柔道着を着て散歩しています。

　今日も、もし夕焼けが美しいなら下駄を履いて散歩するつもりです、この夏の終りを。季節とともに、自分が歩いていることを、ゆっくり確認しながら。


　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　秋ちかく　　夏花踏みし　　下駄の音