軍団モモオ

　　先日、どんぐり１号がマラソン大会に参加しました。なんか５０位以内に入ったらしく、健闘したワシを讃えたいなら飲み会を開けっ！と電話してきやがりました。

　走ったすぐあとで、よく飲めるもんだなと感心していましたが、１号はゴールテープ地点でナンパするほど余裕があったそうです。なんでもゴールして感動している女子は簡単に落ちるそうです。

　吊り橋理論というのがあって、吊り橋でドキドキした女子は、これは恋なのかしら？と勘違いするという有名な心理実験があるそうです。最高のドキドキがマラソンのゴールなのさ、彼は言います。

　「そして、ワシは走り続ける。」

　　どんぐり１号は、そう言います。

　いつもの居酒屋に５時過ぎにつくと土曜なので、沢山の先客がいます。女子店員の貸切りが出来ないと御機嫌ななめになる１号は、呼び出し鈴を連打しては、ワシの魂の注文だけを聞けっ！とエグザイル好きの女子店員に「チューチュートレインするぞ、コノヤロウ！」と八つ当たりしていました。

　「ワシのマラソンはチューチュートレインなのさ。」
　
　どんぐり１号は、そう言います。

　私が１号を讃えるフリをしていると、どうやら、それは５０位以内といっても中高年の部での話のようです。金メダル以外、負けと教えられ育てられた私にしてみれば、そんなのは６０歳以上限定、美乳コンテストのようなもので、熟女マニア以外なんの値打ちの無いたぐいのものでした。

　実は、私は今回のマラソン、１号に誘われていましたが断りました。

　もう若くはないから、でしょう。

　そう言えば、大学を出てすぐのころでした。どういう風の吹き回しか１号と飲みに行くと、前の客が灰皿に生卵の黄身を捨てていました。

　１号は血走った目で、命が灰皿に灰だらけで捨てられていることに憤慨していました。そして、何を思ったか、灰皿の中の卵の黄身をチューチュー吸い始めました。

　私はドキドキしながら、それを見つめていました。

　「ワシはチューチュートレインなのさ。」
　
　そのとき１号は笑顔で、そう言いました。


　私は電車を見ているだけ、チューチュートレインを見てただけの乗りこめないタイプの人間だったのかな？今も昔も・・・私は、ふと思いました。焼酎のロックをあおりながら、人間、駆け出して飛び乗りドキドキしなくっちゃ、チューチュートレインも人生も乗り遅れるな、とそんなことを考えていました。

　そのとき、チューチュートレイン１号は焼酎の梅割の梅干をチューチュー吸っていました。