軍団モモオ

　　 いま、ヒーロー戦隊モノを撮っているのですが下らなすぎてうんざりしています。

　主人公は派遣労働のヒーローで保険も年金もありません。戦って怪我をしたけど労災が適用されなかったので両足をひきずっています。主人公は３兄弟で戦いますが、絆など何もない穴兄弟です。

　敵対する悪の組織の人のほうが真面目で、ハローワークに紹介されたのが悪の組織というだけで、近所の人にはキチンと挨拶するし、給料のほとんどは両親に仕送りしています。

　なんで戦うのだ？と聞かれたヒーローは、「そこに正義があるから。」とマスコミみたいに答えます。

　だんだん私も、「こんなことして、いったい何と戦ってるんだろう？」とウンザリしてしてきたのです。

　
　そのむかし、うちの前に住んでた人が有名なヒーローものの監督でしたが、家にあまり居ないし会うこともなく、そんな人とも知りませんでした。

　オジサンに初めて会った日、私はうちの前で竹馬にカッポ、カッポ乗って遊んでいたのですが、オジサンは急いでカメラを家から持ちだし私を撮り始めました。１６ミリのカメラでしたから現像代もいることでしょうに。べつに私は尻がプリッとして中年に好かれそうな美少年ではありませんし、オジサンは私の守備範囲ではありません。

　オジサンはフィルムを現像してきてくれて、公民館で私の竹馬フィルム上映会まで催してくれました。最初で最後の晴れ舞台でした。

　オジサンはただ、何かに熱中して喜ぶ子供が好きでしょうがないんだと言っていました。本当は子供たちのそういう姿だけ撮っていたかったんだけど、自分が子供を喜ばして、その姿を見ることの方がもっと素晴らしいことだって気がついたんだよ、オジサンはそう言います。


　そんな大事なことを思い出したので、私もオジサンへの恩返しに子供たちを喜ばせてみることにしました。子供たちが、オジサンの好きだった笑顔でいられるよう。

　きっとあの子供の私は、竹馬に乗れるようになったばかりで楽しくて幸せだったのでしょう、そういう気持ちだけラストシーンに凝縮させることにしました。

　そのヒーローモノのラストシーンでは、激闘の末、悪の組織を壊滅させた主人公が、ヒロインのオッパイをワシヅカミにして「いい乳してるな！」で感動の幕をおろします。

　たぶん、きっと子供のころの私も喜んでくれると思います。

　先日、久しぶりに竹馬に乗ってみましたが体は、まだ乗り方を覚えていました、不思議なものです。そして、オジサンは、もうどこにもいないのですけど。