軍団モモオ

　　もう春まっさかりですが、腰痛でダウンしている私は、すこし出遅れたようです。

　春一番がチャンスをうかがうそのとき、乙女が春と正面衝突して、そのスカート短すぎない？うん、もう春ですから、というシーンに私がいないのが信じられないのです。

　乙女たちの細い首からマフラーが取りはらわれ、誘うように開かれた襟元。その雪のように白い胸元の二つの雪山のふくらみの美しさに、生きる喜びを謳歌したいのです。

　私のような詐称アーチストは、あれもキレイ、これがキレイと、うっとりしていられれば幸せなのです。

　もし、私が病院で死ぬなら家族ではなく、看護婦さんに「冥途の土産にオッパイを見せてくれ！」と言って死んでいく覚悟ができています。それがアーチストの誇りというものです。

　ともかく、春というのはジーンズしか履いたことのない女子にすらミニスカートを履いてみようかな？と思わせる魔法の季節です。長州力がピンクのTシャツを着てても、もう春ですから、と見逃してくれる季節です。

　ファッションマッサージ界のファッションリーダーである私には、みんなに流行りを提供する義務があります。

　人間は刺激動物で、流行りを追いかけていないと自分に飽きてしまいますから。

　ですが、今年は体調が悪いせいか、今年のコンセプトすら浮かんできません。新作ブラジャーのデザインだけは描けたのですが、その上に着せるものが描けません。締切まで、あと９５分です。

　息抜きのため、絵本なぞ読んでいると、締切に間に合わないデザイナーが王様に「馬鹿には見えない服」を提出するお話でした。裸の王様ともいいます。

　私は「これだ！」と新作デザインを仕上げました。もったいないですが、新作ブラジャーのデザインはボツにしました。

　流行りに騙されて、全裸で歩いているOL。街行く人も「ああ、春ですから」と春に出現するおかしな人を暖かく見守る眼差し。想像するだけでうっとりしてしまいます。

　「何も着ないのもファッションなんだな。」

　それは、デザイナーとしての私が一皮むけた瞬間でした。