軍団モモオ

　　戦場から帰ってきた私は、もう身も心もボロボロでした。

　それは自分を安売りする戦争で。私の価値は、今どき女子高生が買えるまでに暴落していました。

　そして、悪いことに私は原因不明の病を３つも抱えています。その一つが腰痛です。腰痛症の８０％は実は原因が分からないのだそうで。昨日もバスに乗ろうとするミニスカート人妻がベビーカーを持ち上げるのに苦労していました。

しかし、私は「腰痛持ちで」と人妻をベビーカーごと、お姫様ダッコすることもままなりませんでした。

　さらに、私は顎関節症で口が開きません。これも原因不明です。以前は、さんざん大口を叩いていたのですが、今はリンゴをかじると頭蓋骨が割れそうです。

　最期の秘密兵器は、私の足の小指が高貴な紫色に腫れ上がっています。これは酔っ払いによく起こる原因不明の病で、酔っ払ってどこかの柱にぶつけた可能性があります。

　有頂天の歌に「千の病を持つ男」という歌がありましたから私などまだまだですが、問題なのは顎関節症です。ひどい人は口に指一本入らないのです。私は微笑むことにすら痛みが伴うのでした。それで、すっかり私は笑顔をなくしていたのです。

　他人の失敗を笑うのに心は全く痛みませんが、体は痛むのです。

　体と心は対応しているのです。割り箸を噛んで映画を見るだけでクソ映画が楽しく感じるなどの実験なんかもありまして、糞つまらん人生でも楽しいフリをして笑っているだけで人生たのしくなってくるのです。

　そして、私は楽しいフリをして、幸せなフリをして、笑顔を絶やさずに頑張ってきたのですが。

　「誰かオレの顎が外れるほど笑わせてくれっ！」

　そうしたら、なんか何もかも治るような気がします。心から笑うことができたら、体に負担なく笑えたら、顎に無理な負担をかけることなく笑えたら治る、そんな気がします。

　笑うだけで癌を治す療法があるくらいですが、そんな癌細胞を吹っ飛ばせるくらいの、心の底にあるものから笑えるほどの笑いを、腹がよじれて腰痛が治るほどの笑いを、小指の痛みを忘れてもういっぺんぶつけてしまうくらいの笑いを、私に。

　ですが、テレビを見ても落語を勉強しても、私は少しも笑えませんでした。

　誰かが「一人で笑っているのは、きっと病気だよ」と言っていました。

　一人で笑うのは難しいことなのでしょう。笑顔は伝染するようで。私は自分が笑うためには、みんなを笑顔にしてあげなければ、そうすれば、もうそれだけで幸せなこと、と心にもないことを考えて、私は少し微笑んでいました。