軍団モモオ

　　　いくら練習しても鳴らないオカリナ。うちの母は夢をあきらめたようで、やっと我が家は平和を取り戻しました。

　しかし、今度はハーモニカを買えと私を脅迫してくるようになったのです。どうせ吹けもしないオモチャを買い与えるのは、教育上よろしくありません。
　それでも、昔はペラペラ弾いていたと言いはりますし、なんでも子供のころ、ハーモニカを吹いていると街中のノラ猫が集まってきたそうです。

　それはちょっと、見たかったので私はアマゾンで10穴のハーモニカを購入しました。ちなみにCDとケース付き2700円です。

　届いたそれは、片手サイズのミュージシャンが使うようなオシャレな一品。そして、しばらく母は大人しく練習しているようでした。しかし、いつまでたっても曲らしい音色が隣から聞こえてくることはありません。

　きのう、シャープとフラットはどうやって吹くのか？　なぞ聞いてきた時点で怪しかったのです。それでこっそり、不規則な音を出しているだけの練習している？　母の手元に置かれた楽譜を覗き込みました。

　そこには、平仮名で「もみじ」と書かれてありました。私には旋律も歌詞も浮かんできません。ただ、小学生が弾くような単調な楽譜の上にドレミのルビがふってあります。
　さすがに、私は塾に行くと言って買い食いをしているような母に堪忍袋が爆発しました。

　なんで、いまさら楽器など始めようとしたのか問いただすと、友達が楽器をしているので自分も合奏したいと下をむきました。

「楽器が出来るとカッコいいから。」
　とか言ったら押し入れにでも閉じ込めようかとも思いましたが、ともかく大目にみることにしました。

　実は私はバーボンのロックを飲みながらピアノを弾けたらカッコいいという理由だけで電子ピアノを買ったことがありました。しかし、自分がカッコいいと思っているようなことの大半は他人にとっては痛いだけのみっともないことの方が多いもの。

　自分をカッコいいと思いながら、バンドをしている高校生のようなものでしかありませんでした。　そして、時代は流れて歌番組は減り残ったのはHNKの、のど自慢だけ。

　歌がうまいことより、歌を歌うのが好きという人を見ているほうが楽しいという時代が来ていました。だから、私は音楽が好きであるのなら許すことにしたのです。

　昔から、うますぎるエレクトーンを弾く子供とか見るのがキライでした。

　それで、うちの家からはへんな旋律のハーモニカの音が街に流れます。それを、近所の悪そうなノラ猫が塀の上から、ハーモニカを吹く母を、ものすごい形相でにらんでいました。