軍団モモオ

　　　友人が引っ越しをするので手伝いに行ったときのことです。トラックに載せた荷物を縛ってくれと言われましたが、私は蝶々結びしか知らなかったのです。

　仕方ないので蝶々結びをすると、みんな、「男のくせに」という非難の目で私を見ていました。これが思ったより恥ずかしかったのです。もし、女の子が私を縛って下さいと赤いロープを持って来たとしても、今の私には蝶々結びをして彼女を辱めることしか出来ないのです。

　もっと男らしい男になりたい、私はロープワークもバッチリのサバイバルの動画を見て勉強することにしました。

　その動画は、イギリスの元特殊部隊の男がサハラ砂漠とかアマゾンに置きざりにするという命がけの放置プレイです。飲み水がないとオシッコを飲んだり、ウンコでも転がしてそうな虫を生でボリボリ食べる激しいプレイの連続です。

　たいていのモノはなんでも生で食べ、毎回まずそうに何とかが腐った味と顔を歪めるのでした。汚い川でタニシのような貝を食べたときなど、
「おおーでっかい鼻くその味っ！」
　と言っておりましたので、ということは極限状況下では鼻くそすら食料にした可能性があります。

　私は「生きる」ということが、あまりに強烈すぎてショックを受け寝込んでしまいました。生きていく自信が、ふと無くなってしまったのです。ガンバって特殊部隊に入れても、けっきょく鼻くそを食ったり、自分のオシッコを飲んだりする仕事しかないことにも絶望しました。

　その状態のまま、布団に伏したままで寝正月が終わり、少しずつではありましたが私は気力を取り戻していきました。

　人間と言うものは、生きることを楽しめるように進化してきたものだと思えるようにはなりました。

　そして私は、いま真冬の冷たい防波堤の上で魚釣りをしながら、コーヒーを沸かして飲んでいます。それはいつものコーヒーの味でしたが、全身が冷え切った分だけ幸せなコーヒーではありました。