軍団モモオ

　　　少しくらいの地震では酔っ払いは気づかないくらいの揺れがあった晩のこと。

　私が飲んでいた店のクミちゃんは触り心地のよさそうなハートを二つ持っているので、
「オッパイ、触らせて～く、ださーい。」
「外人風に言ってもダメ。」
　ならば、
「オッパイ、見たいです～。」
「タラちゃん風に言ってもダメ。」
　久しぶりにすべてのモノマネを披露すると、
「しつこいとネットにさらします。」
　そう、怒られました。今の時代、光の速さで全てを世界に晒され、叩かれる新世紀。
「ネットにさらすのだけは勘弁ですぅー。」

　ちょっと不機嫌な対応しただけで世界を敵にまわし、クラスの女子全員に無視された日々。しょせん、無難に生きていくには善人のフリをして生きていくしかないのか？私は肩を落としました。
「人を見れば、お客様と思え！」
　そんな拝金主義者の作る格言が虚しく響きました。

　そして、改心したフリをした私はスーパーのレジで支払った後で満面の笑みでありがとうと言ったり、道で犬にウンコをさせているオジサンにも笑顔で挨拶をするようになっていました。恥ずかしい話。
　
　そんなある日、散歩していると前から電動車いすに乗ったデカイサングラスをした婆さんが来ました。口紅はショッキングピンクで、シルクの手袋。

　私はいつものように腰を九の字にして挨拶すると、婆さんは２０年前から使ってる冷蔵庫の話を始めました。その頭にハデなチラシで折った紙が割り箸に挟んだのがかんざしのつもりか何本も髪に刺さっていました。
「似合ってない。」
　それは婆さんではありましたが、いい人を装ってる私へ、人生訓を伝えに来た妖怪に見えました。そいつは電動車いすのウィンカーをチカチカさせ遠くに去っていきました。　
　それで、私は似合いもしない善人の仮面をかぶるのはやめることにしたのです。

　そして、私が新たに蘇生したその夜、
「今日こそはクミちゃんのオッパイを、この手につかむぞ！」
「イヤッホー！！」
　私と団員たちは暗い路地の果てへと消えていきました。ベッキーとか大変だったんだろうなとか、そんなことを考えながら。
　　


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