軍団モモオ

　　秋になると、憂鬱になってくるのです。

　ビールが真夏ほど美味しくなくなってくるし、素肌をさらけ出していた女子は衣服をまとい、匂いまで内に隠します。そして、日に日に世界は寒くなっていき、やがて凍てつくのかと思うと、虫の声が一層はかないのです。

　しかも、今年の夏は今一つで。初めてビキニを着たのに最後の最後までTシャツを脱げなかった乙女の夏のように消化不良で。気がつくとTV画面の中でしかビキニを見ていないザマ。

　そんな９月も半ばの暑い日、残暑のこる片田舎を歩いておりますと、西にせり立つ低い山から蝉の鳴き声が響いていました。それは全力であり、残りわずかな数でもカスでもない堂々とした轟音でした。

　さすが、わずか１匹で木さえ揺らす生命力の塊。あんな大音量で鳴きさえしなければ、もっと長生きできるはずだろう生き物よ、小さな小さな蝉の命の集まりは世界の理や季節に全力で抵抗しているのでした。

　生命力とは滅びようとする引力に、あらがう力。

　私の頭の中に生命力を表現する完全なイメージ、シンボルが出来上がりました。それはブリーフ一枚の男。その男のパンツの中で全力で鳴く蝉、歌うセミ、踊るセミ、いやセミではなく、それはもう男自身の生命、生命の源、正直ただの欲望。

　これは絵でも写真でもダメなので動画として表現することになりました。

「というわけで、ブリーフいっちょの役、やりたいものっ！」
　私は劇団員どもに語りかけました。
「私がセミになります。」
「いや、私がセミをやります。」

「やめたまえ、諸君。」

　そのとき私の携帯電話が震え、大音量で鳴き始めました。
「ミーン、ミーンミーン、ミー・・・・・・」
　私の携帯の着信音はすでに蝉の鳴き声に変えておりましたので。そのとき、やっと劇団員どもは蝉の役がとうに決まっていたことに気づいたのでした。