軍団モモオ

　　　人の家に行くと、こっそり鏡のチェックをします。

　いちばん自分が美しく映るカガミであるのは当然として、カガミの縁取りが絵を飾る額縁のようになってたり、周囲に宝石がちりばめられていたりするかどうか、それでセンスや感性を確かめます。

　カガミを見れば、その人が自分自身を、どう扱っているのか分かる、そう言ったのはどこのコスプレイヤーだったか忘れましたが、以前の私も普通ののエリートサラリーマンと同じで、カガミは鼻毛が出ていないか確認するための道具に過ぎませんでした。

　むかし、アメリカで大道芸の修行していたときでした。火曜日のニューヨークの２番街、人混みの交差点を歩いていると、ふいに崩れ落ちそうになりました。

　それは不安からきたもので、誰も知りあいがいない街で、迷子になったような気分で、自分が誰なのかよく分からなくなってしまったのです。

「私は何人ですか？」
「おまえは、ただのアジア人だ。」
　
　夢だの、自分探しの旅だの、自分は何をしているんだろう？意味もない、情けない人生。たまらなくなった私は日本に逃げ帰ったのでした。

　逃げ帰った私は、しばらく自分の部屋で何もせずに鏡ばかり見てすごしました。
「おまえは誰だ？」

　そう鏡の中の自分に何度も問いかけ続けると気が狂うそうです。しかし人生なんてもんは、私は誰？自分に何度もそう問い続けながら生きてしまうもの。きっと、それが精神的に悪かったんだと思うようになりました。そんな風にして、自分を忘れていったんだと。

　それで、私は自分の顔を鏡で見てばかりいたのです。自分を忘れないように。

　そして、
「自分は自分。」
　鏡の中の自分に自分の名前を、何度も語りかけるようになりました。それは、
「自分はだれ？」
　そう、何度も問いかけるのが悪いことであるのなら、反対のことはいいことなのでしょう。

　そんな気がします、今のところ。平和な日々。