軍団モモオ

　　　うちの母は片付けられない女です。母は庭に怪しい植物を四半世紀、植えまくり足の踏み場もなく、近所の子供が迷子になったことすらあります。

　そのうえ、私の部屋に飲みに来た連中が面倒くさいので庭で立ち小便をするせいで、庭はムッとするジャングルに成長していきました。そこは目にしみるような色の鳥が飛び、奥からは聞いたことのない獣の叫び声が聞こえます。

　そんなありさまですから、年に２～３回は部屋にゴキブリが侵入します。今朝もゴキオを発見し、必殺ゴキジェットを浴びせかけました。しかしジェットゆえか、スプレーの勢いが強すぎてゴキオの亡骸が消えていたのです。ちょっとしたミステリーでした。

　私は亡骸を探して家中を捜索しました。ゴキオならよいのですが、もしゴキ子だったなら死を覚悟したときに産卵するという荒技が発動するからです。

　それで、普段は入らない仏間に入ったときのこと。豪奢な和服のような布に包まれた６尺の長細いモノが大正琴と一緒に並んでいました。死体は死体でも、これならきっと人間だ、そう思い布を布をめくると、それは和楽器の琴でした。



　なんでこんなものが？不思議に思った私は片付けられない女に尋ねました。それは近所のオバチャンにもらったそうで、大正琴も弾けなかったくせに、まったく懲りない生き物、私はため息をつきました。

　さすがは、うちにはハープがあると小学生のころ嘘をつく私と同じ遺伝子を持つ女、いや諸悪の根源。たぶん、うちに琴があるとステイタスが上がると思ったのでしょう。自慢したかったのでしょう。

　そんな悪い女の遺伝子が私を妄想に駆り立てるのです。それは友達の結婚式で琴の弾き語りをしている私の姿であったり、刑務所慰問で女子受刑者たちが、赤フンいっちょにねじりはちまきの私の演奏をポロポロ涙を流しながら聞いている姿でした。

　とりあえず、練習して動画を撮ろう。いかん、いかん、そんなチャンスの卵を妄想して暖めている場合ではなく、ゴキ子の卵を破棄しなくては。
「人生なんてかえらなかった夢の卵だらけだしな。」
　そう呟いて、私はまた卵探しの旅に出かけました。